日曜サスペンス劇場(25) / 痕

 本筋
 倉庫の前。
 羽山トモカは考えた。
 誰も倉庫の中を捜してないに違いない。
 倉庫の鍵は、結城ミサオと片倉ナツキのふたりが管理している。
 けれども。
 阿佐ヶ谷タクロウ捜索の際、どちらも倉庫については何も語らなかった。
 ほかに館石ヒナノも倉庫の鍵を開けられる。
 ヒナノが倉庫の中に忍びこんだのを目にした。
 とはいえ、ヒナノ自身がそれを明かすとは思えない。
 ここで、タクロウもミサオの部屋に忍びこんでいたのを思いだした。
 やはり。
 トモカは考えた。
 倉庫の中にいる可能性はある。
 まだ見つかってない以上、その可能性は高い。
 ……?
 これは……?
 床を見たトモカは、たまたま何かが擦ったような痕を発見した。
 その痕は、まるで……。
 トモカは考えた。
 革靴?
 そして革靴を履いていたのはタクロウだけだ。
 ここで「何か」があった……。
 内心でそう呟いた瞬間、背後から声が発せられた。
「あら。どうしたの、羽山さん?」
 どくん。
 驚いた。
 一瞬遅れて不安に、畏怖に、恐怖に襲われる。
 知りたくない。
 判りたくない。
 認めたくない。
 だが、知っていた。
 だが、判っていた。
 認めるしかなかった。
 ぎこちなく、後ろに振りむく。
 相手の感情を害しないていどに。
 けれども、確実にゆっくりと。
 それが自分に許された、ささやかな抵抗。
 結城ミサオ。
 ミサオは満足そうな笑みを浮かべ立っていた。
 まるで「全てが自分の計算通りに進んでいる」かのように。
「世界が自分を中心に回っている」と信じているかのように。
 それが叶わなければ、力づくでも世界を回しかねない。
 藤原道長のように「力」を持っている。
 そして、そのことを「知っている」のだ。
 
 
 もしかして……。
 いや、きっと。
 トモカは考えた。
 ミサオは「誰かがここに来ること」を予想していた。
 だから、こんなに早く、しかも独りでここに来れたのだ。
 そして、その予想の根拠はタクロウの失踪と何か関係があるに違いない。
 笑みを崩さず、ミサオは立っている。

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