日曜サスペンス劇場(9) / 出航

 現時点での主な登場人物
  ・朝比奈サヤカ(女)
  ・沢田ヨゾラ (男)
  ・羽山トモカ (女)
  ・福田ヤスオ (男)
  ・阿佐ヶ谷タクロウ(男)
  ・館石ヒナノ (女)
  ・結城ミサオ (女)


 本筋
 下北半島
 クルーザーの前には、映画研究会の一行を待っていた、別の一団がいた。
 ほとんどが高校生くらいだが、中にひとり、成熟した男が含まれている。
 その男はエイケンの一行に目をやると、まっすぐ近づいてくる。
 近づくと、鍛えた筋肉が目立つ。
「がっはっはっは〜。
 結城お嬢様、こちらでございます〜」
 そう声をかけてから、その男は自己紹介をする。
 彼の名は片倉、クルーザーの船長だ。
 続いて、片倉船長の右隣に立つ女性を紹介する。
「これは娘のナツキです。
 こいつに、皆さんのお世話をさせていただきます」
 紹介された片倉ナツキはぺこりと頭を下げる。
 ぱっと見、高校生ぐらいだろうか?
 この「お世話」には家事が含まれているニュアンスがあった。
 片倉船長は後ろの一団に顔を向けて合図を送る。
「おい。こちらの方々の荷物をお運びするんだ」
「うぃ〜す」
 声をかけられた男たちはさっそく、エイケンの荷物をクルーザーへと運びはじめる。
 おそらく、今回の旅行の手伝いとして雇われた高校生であろう。
 てきぱきと荷物を運んでいく。


 荷物の積みこみが終わった。
 荷物運びの手伝いをしていたスタッフ達はクルーザーから港に戻っていく。
 スタッフ達全員が降りたのを見届け、片倉船長がクルーザーを出航させた。
 片倉ナツキも、父である、船長の手伝いを行う。


 さて。
 ここで改めて、結城ミサオの用意したクルーザーを描写しておこう。
 定員は10人だ。
 3層に分かれていて、一番上に大きな部屋がある。
 真ん中の層は個室に分かれている。
 そして、一番下の層は倉庫になっている。
「成金趣味」的な装飾は一切ない。
 その代わり、あちらこちらに「通が見れば分かる」ような贅沢さを揃えていた。
 たとえば、使用している木である。
 潮によって腐りやすい部分には、安めのベニヤ板を使うのが普通だ。
 だが、このクルーザーは天然の材木を贅沢に使っている。
「他人に見せる」贅沢ではなく、「見せない」贅沢、あるいは「粋な」贅沢をしている船であった。
 これは、結城ミサオの服装にも通じるものがある。
 結城一族が何代も前から連なる裕福層だという事実を示唆するクルーザーであった。

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