日曜サスペンス劇場(3) / 操

 樹が通っていた大学は文京区にあった。
 最大の特徴は、生徒の多種多様さにある、そんな大学だった。
 その理由のひとつは、総合大学だからであった。
 それも、全ての学部が同じ敷地内にあった。
 また、学費の安さも理由のひとつかもしれない。
 日本大学の3分の2ほどの学費は、私立の中では安い部類にはいる。
 成績優秀な生徒が奨学金を受けながら通っていた。
 その一方で、裕福な生徒は、入学時に何口かの寄付金を支払っていた。
「寄付」である以上、強制ではない。
 そんな「裕福な生徒」の中でも、ずば抜けて裕福な学生がいた。
 彼女の名前を「操」という。
 探せば、彼女のことを知らない生徒がいるかもしれない。
 しかし、彼女の親が経営している「結城製薬」を知らない学生はいないに違いない。
「結城製薬」の株は一般には売られていない。
 結城一族が中心となる経営だったからだ。
 だが、世界で5本の指に入る大企業であり、子供でも知っている。
 そんな大企業の「お嬢様」が結城操だった。


 お嬢様といっても幅が広い。
 少女マンガの悪役として登場するような、ひねくれた性格は操にはなかった。
 産まれた時から満ちたりた、何ひとつ不自由ない生活をすごしてきたのだ。
 そのため、「他人に嫉妬する」というネガティブな感情を無縁に生きてきた。
 洋服ひとつとっても、2日と同じ服を着ているのを見たことがなかった。
 絵に描いたような、お嬢様であった。


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