ある愛の唄 (その3)

2003/10/17 (Fri)

 ※この話は前回からの続きですよ。
 読んでない方は第1回からお読みいただけると幸いです。

 その「事件」はひとりの来訪者から始まりました。
 ぼくはナースステーションで事務作業をしていました。
 すると、突然声がかかりました。
「わたくし、鈴原というものですが」
 見ると、背広を来た30代後半から40代前半くらいの男の人が立っています。
「はい?」
 ぼくは返事をするとともに近づきます。
「昨日、緊急入院した父を看に来たのですが」
 ああ。昨日の患者さんの息子さんですね。
「ええと、こちらです」
 ぼくは先に立って、鈴原さんを案内します。
「息子さんですか?」
「ええ。父は? 父はどうなんですか?」
 鈴原さんが静かに尋ねます。
「大丈夫ですよ。2〜3日ですぐよくなりますよ」
「……。そうですか」
 ぼくの言葉に鈴原さんは応えます。
 が、あまり嬉しそうではないみたい。
 変だなぁ。

「ここです」
「個室ですか」
「はい。では」
 鈴原さん親子をふたりきりにして、ぼくは外に出ました。
 親子水入らずっていうやつです。

 ぼくがナースステーションでさっきの続きをしていると、鈴原さんがやってきました。
 息子さんの方です。
 興奮して真っ赤な顔をしています。
「父を……」
「はい」
「父を2、3ヶ月ここに置いてくれませんか?」
「……え?」
「お金なら払います。お願いします」
「あの、事情はよく分かりませんが、そういったことは、ぼくの一存では……」
 鈴原さんは肩を落とします。
「……そうですか」
 一体何があったのでしょう?
 気になります。
 もっとも、本人が話す気がないのなら訊くことも難しそうです。
 一体何が……?


 ※「あとどれくらい続くの?」
  「あと2回か3回で終る……」
  「終るの?」
  「終るといいなぁ……」
  「をいをい」