日曜サスペンス劇場(41) / 教唆

 このシーンの主な登場人物
・結城ミサオ(女)
・羽山トモカ(女)

 本筋
「……ふぅ」
 割り当てられた部屋に着いて羽山トモカは、ため息とともに荷物を降ろした。
「もう……逃げられない……の?」
 ひとり言をそっとつぶやく。
 クルーザーの上で結城ミサオから告げられた言葉が頭をよぎる。


「わたし、見ちゃったの……」
「え……?」
 鎌をかけられているのではないかという一途の望みが口を重くする。
「あの時、雨が降っていたわね」
「……」
「轢いたの、見ちゃった」
 決定打だった。
 もう何も反論できない。
「でも、安心していいのよ」
「……」
「黙っていてあげるから」
「……?」
「その代わりお願いがあるの」
 本当の意味の「お願い」ではないことは十二分に分かっていた。
「あら、そんな怖い顔をしないで。すごく簡単なことよ」
 そう告げてからミサオは「お願い」を口にする。
「え?」
 トモカは、聞きかえした。
「聞こえなかったの?」
 にやり、と邪な笑みを浮かべて繰りかえす。
「殺してほしいのよ。今度は聞こえた?」
『コンビニでアイスクリームを買ってきて』とでも云うような軽い口調で告げる。
 そして殺人のターゲットは「福田ヤスオ」であった。
「ちょ、ちょっと待ってよ。彼はすごく力が強いんだよ」
 トモカが必死で反論する。
「あら、大丈夫よ。孤島の北に崖があるの。
 何か理由をつけて、そこに呼びだして、油断しているところを突き落とせばいいのよ」
 さらりと答える。
「……!」
 淡々とした口調に、背中が寒くなる。
「じゃあ、お願いね」
 その言葉を残し、ミサオは背中を向ける。
「……殺人教唆
 そう呟くのが、トモカにできる唯一の抵抗だった。
                         (続く)